地元就職した理由
ー白水堂について教えてください。

白水堂は、1887年(明治20年)に長崎市で創業した和菓子店です。桃かすてらやかすてら巻をはじめとする長崎由来の菓子や、季節の和生菓子を、職人の手で丁寧に作り続けています。
現在は本店(思案橋エリア)のほか、長崎駅「かもめ市場」、浜町など市内4店舗を展開し、地元のお客様や観光客に親しまれています。

私は、高校を卒業してから入社し、12年目を迎えました。店頭での接客を中心に、SNSを使った広報、取材対応を担当することもあります。
ー地元の老舗菓子店に就職されたのはなぜですか?お菓子に興味があったんでしょうか。

実は、おくんちが理由なんです。高校卒業を控え進路を考えたとき、自分の中に湧き上がってきたのは「長崎に残って、またおくんちに出たい!」という気持ちだったんです。
親戚の家が踊り町にあったのがきっかけで、小学生の頃にはじめておくんちに参加しました。

おくんちは7年に一回なので、その後、高校1年生のときと、23歳のときに出演しました。せめてあと一回はおくんちに出たいという気持ちが強くて、長崎市で就職する選択をしました。
ー長崎くんちのWA!が楠本さんを地元就職に導いたのですね。
はい。そういうことになりますね。おくんちが働く場所を決めたと言ってもいいかもしれません。
長崎くんちのWA!の魅力
ーくんちの魅力をどのようなところに感じられますか?
年齢も職業も違う人たちが集まって、奉納のために半年以上もの時間をかけて準備していくところです。出演者はもちろん、その家族や地域のかたなど、こどもから大人まで、世代に関係なく深く関われるのが長崎くんちの魅力だと思います。


奉納は7年に一度。少しずつ入れ替わりもあるので、同じメンバーで奉納するのは毎回一度きりです。
6月から4カ月以上、本番に向けてトレーニングや練習を重ねるので、結束力も強くなります。学校や仕事を終えてから練習に励むので、大変なこと、きついこともたくさんあります。3日間やり終えた時の達成感はすごいです。
このメンバーで出来て良かったな、と。
2025年は年番町※(ねんばんちょう)を務めました。
裏方として関わるようになった今は、支える側の大切さも強く感じています。
おくんちという文化に、人との「つながり」も育むことができました。町の方々との関係性の中でさまざまなことを教えていただきましたし、育ててもらったと感じています。
※年番町とは
長崎くんちに関わる神事への参加、事務手続きや、運営などの裏方に関わる役目をする町。踊り町を務めて3年後に役目が回ってくる。
ー白水堂さんは、長崎くんちにも関わりが深いのではないですか?
はい。長崎くんちには、菓子の差し入れや御礼の文化もあります。当社の看板商品である桃かすてらをピラミッドのように積んだお菓子は好評で、贈られた方が「とても良かったから今度は贈りたい」とご注文くださったこともあります。
菓子店として長崎くんちに関われるのは嬉しいですね。

長崎伝統の菓子「桃カステラ」のアップデート

―白水堂さんといえば桃かすてらを浮かべる市民も多いと思います。
ありがとうございます。桃かすてらは、当店の看板商品のひとつです。菓子職人が一つ一つ手作業で仕上げています。かすてらは創業時から、桃かすてらも創業直後から販売され続けています。砂糖の口どけや生地とのバランスなど、常に美味しさを追求して改良を続けています。
ー変わらないように見えて、より美味しくなっているのですね。
見た目は変わらないお菓子ですが、密かに進化しています。
実は、長崎駅前の長崎街道かもめ市場店限定で「桃の道しるべ」という新商品があります。これは、桃カステラを知らないお客様とのやりとりから生まれたお菓子なんです。

桃カステラは、県内では桃の節句のお菓子として親しまれていますが、県外や海外のかたにはまだまだ知られていません。
接客をしていると、「桃の味がするんですか?」とか「ピーチフレーバーのお菓子かと思った」と聞かれることが意外に多いんです。
「これは桃そのものではなく、お祝いの象徴としての桃なんです」と説明すると、皆さん「なるほど」と納得されますが、桃の見た目をしているからこそフルーツの桃を想像され、桃の風味を期待されることもあるんです。これは新しい気づきでした。
この気づきは、社内でも話題になりました。
そうして誕生したのが、小さくカットした白桃の果肉を白餡の中に入れたお饅頭「桃のみちしるべ」です。桃をかたどっていて、見た目も味も桃なんです。長崎伝統の桃かすてらをベースに、観光客の視点を重ねて生まれた、白水堂で一番新しいお菓子なんですよ。

長崎ならではの菓子文化を広げたい
ー長崎の菓子文化を、県外や、海外に広めるには何が必要でしょうか。
長崎の菓子文化そのものをきちんと発信をすることが大切だと感じます。
桃の節句を桃カステラでお祝いすることや、縁起のいいお菓子として贈り合うのは、長崎独自の文化です。ネットで桃かすてらを購入くださるお客様の多くは、長崎ご出身で県外に住まわれているかたなんです。
「桃カステラ文化」を県外でも楽しもうとご愛顧いただき、ありがたいことです。
ーなるほど。なぜ桃カステラが縁起のいいお菓子なのかや、長崎における桃カステラの意味を伝えることが大切なのですね。
そう思います。なので、オンラインショップでは、初めてのかたでも「これがどんな商品なのか」がわかりやすい説明文や写真を掲載するよう心がけています。

SNSでは、桃かすてらをはじめとした商品に興味をもってもらうための発信をしています。桃かすてらは、実はとても手がかかるお菓子。だから、Instagramのリールで桃かすてらの製造工程を紹介したり、桃かすてらがどれくらいのサイズなのかを伝えたりすることで、視聴者の興味をひければと思っています。今後は、職人さんの技ももっと見せていきたいです。
ーSNSでの発信の成果はいかがですか?
「SNSを見てきました!」という若いお客様も増えてきました。本店併設の喫茶では、SNSでミルクセーキをチェックして来店してくださるケースがとても多いんですよ。
SNS発信に関してはまだまだ改善の余地がありますし、初めてから月日も浅いので、力を入れて継続していきたいと思っています。
100年に一度の長崎を感じるとき
ー長崎のまちが100年に一度の変革期を迎えましたが、仕事を通してまちの変化を感じられていますか?
長崎スタジアムシティの開業以降、サッカーの試合の日には、ユニフォーム姿のサポーターさんがお土産をご購入くださいます。
出島メッセでの会議やイベントの参加者も、来店くださる機会が増えたと思います。

私自身は、知り合いに誘われてバスケットボールの試合を何回か見にいきました。やっぱり生で見ると楽しいですよね。テレビとは比べものにならないです。
スタジアムシティができて、長崎を代表するチームがあって、プロの試合が身近に見れる。まちのみんなで一つのチームを応援できて、とても良いなと感じます。
ーこの変化を、仕事でどのように活かしたいと思いますか?
スポーツ観戦のお客様も来ているので、今後は、スポーツとお菓子を掛け合わせて、商品開発や発信をしていきたいですね。県外から来たかたにも長崎の菓子を知っていただく良い機会だと捉えています。
また、菓子商品だけを発信するのではなく、歴史的背景も伝えたいです。カステラは当たり前に知っていても、「なぜカステラが生まれたのか?」まで知る人は観光客には少ないかもしれません。出島での砂糖貿易や、シュガーロードなど歴史的なストーリーを伝えることができれば、有平糖(あるへいとう)※やチョコレートにも興味を持ってもらえるかもしれません。
SNSで発信し、旅行する前に知ってもらうことで「長崎に行ったらお菓子を食べよう」「カステラ以外の菓子も食べよう」と旅の目的にしてきてくれるかもしれません。ミルクセーキを目指してくる観光客がいるので、実現できるのではないかと思います。
長崎の菓子全体を盛り上げ、商売にも良い影響が出ればと思います。
※有平糖とは
カステラと同じように、ポルトガルから伝えられた南蛮菓子のひとつ。ポルトガル語で砂糖菓子という意味。砂糖に水飴を加えて煮詰め、冷やして棒状にしたり、紅白の千代結びにしたり、花や果実をかたどったりしたもの。
他のまちにはない景色
ー楠本さんは、長崎のまちの魅力はどこにあると思いますか?
中華街や出島、教会群。小さい頃から、異文化が混じり合う空気、文化、まちなみが当たり前のようにそこにありました。どれも、長崎の特別なものだと思います。観光客のかたにもお勧めしたいです。







特に、長崎の夜景が好きなんです。実家も、現在の自宅も高台にあり、夜景が見える環境で育ったので、他の街にはない景色を誇りに思います。

今後、チャレンジしたいこと。
やはり、長崎の伝統的なお菓子を守り、広げていくことを大切にしたいです。
長く地域の皆様にご愛顧いただいてきた店ですが、人口減少とともにお客様の数も減っています。ご高齢の方からは「お店まで行くのが辛い」とのお声もいただきます。
だからこそ、県外のお客様だけでなく、県内、市内のお客様のためにも、オンラインショップをよりわかりやすく、より便利にする必要を感じています。
これからも、伝統を守りながら、リピーターのお客様にも、若いかたにも手に取っていただける和菓子作りを続け、長崎の菓子文化を広げるSNS発信を強化していきたいと思っています。
また、私自身は子育て中でもあるので「これからの世代がもっと暮らしやすい長崎に」という想いもあります。もともと長崎は、人と人がつながるあたたかいまちだと思うので、そこから課題解決できることもあるかもしれません。いろんなWA!で、暮らしやすい長崎ができるといいなと思います。
菓子の仕事と、家族との時間。
どちらも大切にしながら、長崎の魅力をお菓子とともに届けていきたいです。

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