ロンドンやパリでの修業を経て、長崎市で起業した理由
ー各国で修行していろんな経験をしたからこそ、起業する場所の選択肢は多かったと思います。なぜ地元長崎市で起業をしたのか興味深いです。
留学と海外研修を終えて日本に戻ったタイミングがコロナ禍とかぶってしまったんです。なので思ったよりも開業準備期間が長くなりました。当初、都会や県外でお店を始める計画ではあったのですが、ちょうどその頃に、長崎市の若者世代流出がワースト1位になったというニュースを聞きました。何か自分にできることはないかと考え、地元長崎市で事業をスタートすることを決心しました。

ー修行されたロンドンやパリとはまちの規模感も人口も違うと思います。長崎市での起業に不安はありませんでしたか?
正直なところ、ありました。一つは、お客さまが来てくださるかということ。もう一つは、人材が集まるだろうかとという不安です。
でも、いざ開業してみると、たくさんのお客さまに来店いただけましたし、人材確保も上手くいきました。コロナ禍かつ、若者が流出しているというマイナス要素はありましたが、一方で、長崎市は西九州新幹線の開業などでまちも盛り上がっていくタイミング。その波に乗れた!と今は思えます。もちろんまちの発展だけでなく、お客さまに喜ばれるような商品を開発したり、サービスを磨いたりしました。

現在、本店と市内のアーケード近くの店舗のほか、大阪(大阪府)、伊勢(三重県)、飛騨高山(岐阜県)、高松(香川県)など全国の観光地で展開できています。
長崎市で磨いたサービスを生かして、県外にもお店を広げている他、海外では飲食事業のコンサルタントを務めています。2025年は、海外の仕事や国内での店舗オープンが控えています。

「長崎市の人とまちが、サービスを磨く「余裕」をくれる」
ービジネスにおいて、長崎市ならではのメリットはありますか?
長崎市はコンパクトでその気になればすぐ繋がれるまち。気になる企業さんに声をかけやすいですし、いいなと思った事業者さんとパッと繋がれたり、紹介してもらえたりします。万屋町の店舗には、地元の角煮屋さんとコラボして作ったメニューがあります。
うちのお店は、店舗の建築からグッズ作りまで、ほとんどを市内や県内の事業者さんにお願いしています。いい会社がいっぱいありますよ。地元の方々に作ってもらった商品やサービスを県外の店舗に持っていってお客さまに満足してもらった時は、なんだかとても嬉しくなります。

そして、長崎市だからこそ、接客を磨けていると思います。
長崎市って、優しいかたが多いと思いませんか?お店のお客さまもみなさん優しくて、心にも余裕があるかたが多いんです。だからこそ、ストアスタッフは、いろんな接客にチャレンジして、サービスをより良くすることができます。日々の接客でいっぱいいっぱいになっていたら、こうしたチャレンジはできないと思います。
初の県外店舗をオープンさせた時は「長崎市でのやり方が他で通用するかな?」という不安がありましたが、結果的にうまく行きました。

ーそれは嬉しいですね。
長崎市だからこそサービスを磨けたと思います。これは個人的な考えですが、長崎市は以前から観光地として認知されていて、おもてなしの精神を持つかたが多いと思うんです。そんな環境も、事業にいい影響を与えてくれていると思います。
事業を通じて感じた長崎市への注目度
ー長崎市は100年に一度の大きなまちの変革期を迎えていますが、西原さんの実感としてはどうですか?
日々の接客では、海外のお客さまが増えていることを感じています。コロナ禍前の経験がないですが、国内外の観光客は右肩上がりです。大きなイベントがない時期でも平均的にお客さまは増えています。
そして、観光客だけでなく、長崎を離れていたかたが、戻ってくるような動きも感じています。まちなかでも郊外でも、自分がやりたいことや、繋がりを見つければ、ビジネス発展のチャンスがあると思います。若いかたが戻ってきて、つながって、盛り上がるような雰囲気になればいいいですね。
また、長崎市への注目度が高まっているのも肌で感じます。私は東京、韓国、台湾などの会社と仕事をしているのですが、そこで「長崎市は今、発展してるまち」と見られているんです。長崎市に関心を持たれている大手の企業さんも多いです。注目度が高まっている今だから、外の企業とも繋がりを持ってビジネスを広げていきたいと思います。
ーハード面の整備で生まれた魅力の他に、どんな魅力があると思いますか。
100年に一度の規模のまちづくりで便利になって、「都会」の感じも増してきていますが、ちょっと車で行けば、すごく綺麗な海や景色、自然があって、それも長崎市の魅力だと思うんです。まさに本店はそんなロケーションを生かした場所になっています。以前からそこにある風景をお店づくりに生かしたり、食文化をメニュー開発に生かして好評をいただいたり…そういうこともできるまちだと思います。

もっと起業しやすい長崎市になるために
ービジネスの場として魅力的な長崎になるためには何が必要だと思いますか。
市の中心部は家賃が高いこともあって、最初に必要になるイニシャルコストが高いと思うんです。家賃が低い郊外で始めたとしても、日本自体が海外と比べて起業のハードルが高いと感じます。

というのも、今、海外で事業をスタートさせようとしているのですが、韓国や台湾は小さいビジネスをスタートしやすい環境です。個人の起業に対して国からの補助金が手厚かったり、機械も手頃に手に入ります。小さいビジネスをスタートしやすいから、若いかたも起業しやすいと思います。
日本で同じスケールで始めようとすると、約2倍はかかる感覚です。
初期費用や家賃を多めにサポートしてくれる動きがあれば、若い世代の起業がもっと盛んになるのではないかと思います。
起業をしたい若い世代のかたに伝えたいこと
ー県外、海外からの依頼はどのように来るのでしょうか。
実店舗に来たかたから直接声をかけられたりもしますが、メインはSNSです。きちんと投稿を続ければ、意外なところでも見てくれているようです。一度つながると、そこからご紹介が続いていきます。(加筆)海外からの依頼もSNS経由でした。
長崎市だから知ってもらえないとか、声をかけてもらえないということはないですね。これまで、ビジネスの拠点として不便に思ったことはありません。
むしろ、観光地として全国から人が来るので、たくさんのかたにお店を知ってもらえます。県外の店舗で「ここのお店、長崎で行きました」と言ってくださるかたもいらっしゃったんですよ。長崎市を訪れた全国の人に知ってもらえるメリットを感じます。

ちなみに、本店の周辺は、お出かけスポットなどがあまりない地域で、地理的にも市中心部から遠い場所です。でも、わざわざ車で目指してやってくださるお客さまで週末はとてもにぎわいます。強いアピールになっているのは、この店のロケーションです。
海が見えるテラス席が人気で、ここから見える風景はSNSでもよく投稿されるもののひとつです。「お出かけ感」を楽しみたい市民のかたも来られますし、SNSで人気カフェとしてご紹介いただいたこともあって観光客のかたもレンタカーで来られます。
このロケーションは、ここでしかできないおもてなしのひとつになっています。

もし、かつての私と同じように長崎市での起業に不安を感じる方がいたら、「都会だから」「長崎だから」といって大きな違いはないということはお伝えしたいです。お店を一年開けていれば、やはりお客さまが多い時も少ない時もあります。でもこれは、日本中、どこでも同じだと思います。
毎日品質の良いものを頑張って作っていればお客さまにはそれは伝わりますし、長崎の良いものを生かした商品や、サービスは、県外でも分かってもらえます。
今の時代、都会かどうか、人口が多いか少ないかなどは、あまり関係がないのかもしれません。長崎でうまくいくのであれば、どこでも十分うまくやっていけるということを日々実感しています。
(終)
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