旅の目的地になれる唯一無二のホテルへ
ーホテルインディゴ長崎グラバーストリートについて教えてください。

「ホテルインディゴ」のコンセプトは、地元の魅力を映し出す “ネイバーフッドストーリー”。それぞれの土地に息づく魅力を掘り起こし、ホテル館内にいながらも地域の文化や歴史を感じ、一帯を散策することで理解が深まり、地域とのつながりを強く実感できます。
ー長崎市で開業したきっかけを教えてください。
長崎市の歴史・文化を紐解いていくと、一言では語れない魅力にあふれています。キリシタンがもたらした文化、近代の西洋建築や庭園など、さまざまな異国のライフスタイルが交錯する中で、長崎湾を望む高台というロケーションの魅力に惹かれました。

建物は、もともと児童養護施設「マリア園」として使用されていた歴史的建造物でしたが、建築から120年を経過しており、ホテルの運営母体である森トラストグループにてこの建物を引き受け、改修しました。

赤煉瓦造りの歴史的建造物を活かした、ホテルインディゴブランドとして世界中のゲストから旅の目的地として選んでいただける唯一無二のホテルとしての魅力と、長崎市が持つ多様な歴史と文化の魅力により、ホテルに滞在することでゲストの好奇心と感性を刺激するようなホテルになれると考えています。
「素敵なホテルにしてくれてありがとう」
ーどんなゲストがいらっしゃいますか。
建物の歴史やデザイン、象徴的なステンドグラスに興味を持ってお越しいただくかたが多いと感じています。また、長崎市の多様な文化、歴史に興味を持たれているゲストが多いと感じます。ステンドグラスの研究者のかたもお越しになりました。

また、市民のかたにお食事でご利用いただいたり、お散歩の途中で立ち寄っていただいたりすることもあります。この場所にゆかりのあるかたや地元のかたの訪問はとても嬉しいです。ご宿泊されなくても、ぜひお立ち寄りください。
ー新築ではなく改修をされたのはなぜでしょうか。
旧マリア園は多くのかたの想い出が詰まった場所です。施設が生まれた経緯や、地域の皆さまとともに歩んだ歴史、居留地にあったことから海外の子女も受け入れてきたこと、被爆を経験し乗り越えてきたことなど、長崎市の歴史や文化そのもののようなストーリーを持っていたからです。残すべき建物だと考えました。
また、さまざまな文化が混じる、長崎市の和・華・蘭の文化を体現する建築でもあります。煉瓦造りの建物ですが、屋根は瓦屋根と銅板が使われグラバー園と同じ日本の技術が使われています。今はレストランになっている旧聖堂は大浦天主堂と同じ「リブ・ヴォールト天井」で、1898年の建設当時のデザインを残しています。西洋建築を日本の大工さんが建てたというのも、長崎市ならではの面白さだと思います。
この建物は、長崎市が歩んできた歴史、紡いできた文化そのものであり、長崎市のまちを見守ってきたシンボル。「この建物とともに、背景にあるストーリーを受け継ぎたい」と強く思いました。それだけ重みのあるホテルだと考えております。

ー歴史的な建造物というだけでなく、多くのかたにとってかけがえのない場所を引き継いで、どのようなお気持ちですか。
マリア園の卒業生、教えていた先生方がいらして「素敵なホテルにしてくれてありがとう」「残してくれてありがとう」と声を掛けてくださったんです。ホテル業界で働いて20年以上経ちますが、こんなにも嬉しいお言葉をいただいたことはありません。そのようなホテルで働けることが喜びです。
長崎市の歴史・文化を体験できるホテル
ーホテルインディゴ長崎グラバーストリートで体験できる、長崎市の “ネイバーフッドストーリー”はどのようなものでしょうか。
コンセプトは「時空を旅する和・華・蘭ラビリンス」です。
エントランスから始まり、ホテル全体に長崎で生まれたあらゆるモノがモチーフとなり散りばめられております。
まず、当ホテルの象徴的な場所がこのレストランです。聖堂だった場所で、アーチ状の天井は約10メートルの高さがあります。

厳かな空間に、ステンドグラスからの光が差し込みます。ドアを開けて一歩入った瞬間に、「わぁ!」と声を上げられるお客さまも多いんです。
ー不思議に思ったのですが、手前のステンドグラスからは、光が差し込んでいません。壁があるのはなぜでしょうか。
入り口に近い2枚のステンドグラスは、聖堂だった頃のものがそのまま残っています。大切なものなので、壁を作り保護しているんです。

ホテルでは、このようなお客さまからの「なぜ?」をきっかけにこの場所のストーリーや長崎市ならではの文化や歴史をご案内しています。ホテルの中には、なぜ?が生まれるポイントがたくさんあるんです。
もし、市民のかたがこのホテルに来られたら、「あの場所がモチーフになっているのではないだろうか」と気づいていただけるポイントがたくさんあると思います。

長崎更紗の模様をイメージしたタイルがあります。
ー客室に向かう廊下の絨毯は石畳ですね!
長崎市の情緒ある景観をつくっている石畳の形を組み合わせたオリジナルの柄です。ホテルの中であっても、まるで長崎のまちを「さるいて」いるような気持ちになっていただけるようにと工夫を凝らしました。

ー寝室のクローゼットの壁紙も、見たことがあります。
出島のカピタン(※)部屋にあしらわれていた壁紙「唐紙」をモチーフにしています。
※江戸時代、出島に滞在したオランダ商館長は、日本人から「カピタン」と呼ばれていた。英語で「キャプテン」の意味。


ーお部屋の番号を示すルームプレートは、もしかして・・・。
ルームプレートは、長崎市の伝統工芸である長崎刺繍です。長崎くんちの衣装や傘鉾に使われている伝統の技を、ホテルならではのかたちでお伝えしています。鍋冠山側のお部屋は山の刺繍、海側のお部屋には波の長崎刺繍が施されています。丸い形は、日本で初めて眼鏡が製造されたのが長崎市だったことから、レンズの形になっています。

ー長崎市ならではの食文化は体験できますか?
ディナーはフレンチのコースをご用意していますが、和・華・蘭の文化を感じさせる個性豊かなメニューを季節に合わせてご用意しております。

市民の皆さまにはお馴染みの「〆のおにぎり」の食文化も取り入れ、コースの終盤にはミニおにぎりをお出ししています。
ーまちの誇りや自慢がぎゅっと詰まっていて、自慢したくなりました。
高いポテンシャルを持つまちだからこそ、
体験メニューも開発しやすい
ー課題を感じる点はありますか?
我々ホスピタリティ業界においても、次世代を担う若い人材の確保が恒常的な課題となっています。
一方で、就職先となるホテル、特にインターナショナルホテルブランドが長崎市に増えていることは、人材育成の面から見ても良い傾向だと思います。
ーいろんな仕事が長崎で生まれているとも言えますね。

ー観光地としての長崎市に、どんな可能性を感じていますか。
長崎市が持つストーリーは本当に多く、高いポテンシャルを感じています。
その魅力はインバウンドのお客さまにも伝わると確信しております。
2024年の訪日外客数は約3,650万人程度で消費額も8兆円超が見込まれており、当ホテルはインバウンドの呼び水になるのはもちろん、個性的なホテルとしてリピーターのお客さまを増やしていきたいと考えています。みじ
ー今後、どのような取り組みを考えていますか?
長崎市の魅力を体験する部分を強化したいと考え、体験メニューを開発中です。魅力が多いからこそ、どのストーリーに、どう光を当てるのかが大切だと考えています。
特に、歴史の中に「はじまり」が多い長崎市のさまざまな文化に光をあてることが必要だと感じています。例えば、出島には、海外から多くの「こと・もの」が入ってきました。今は皆さんが当たり前に口にしているコーヒーやチョコレートも、実は長崎市が伝来の地です。


スイートルームのテーマになっている。
メジャーなものから身近なものまで、さまざまな角度から光を当て、ホテルのコンセプトである「地元の魅力を映し出す “ネイバーフッドストーリー”」に落とし込んでいきたいと考えています。
このまちのシンボルとしてあり続けながら、長崎の歴史や文化を、滞在を通して世界に発信していく役割を全うしたいと思います。

(終)
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