長崎市には、行政が提供するサービスや地域の子育て支援センターだけでなく、さまざまな形で子育てをサポートする心強い人たちがいます。
子育て中のママ同士によるサークル、絵本の読み聞かせを行うグループ、ママを支える家事代行サービスなど、その取り組みは多岐にわたります。最近では、飲食店が大人向けのメニューに加えて離乳食を提供するなど、まち全体で子どもとママに寄り添う動きも増えてきました。
そんな「長崎をもっと子育てしやすいまちへ」という思いを胸に活動している人のひとりが、助産師の安田可奈子さんです。安田さんの「ママエール」の取り組みについてお話しを伺いました。
長崎のママの味方
「ママエール」は、助産師・安田可奈子さんが2020年に長崎市城栄町で開業した、”いつでも頼れる助産院”です。お産は取り扱わず、産前・産後のママたちに寄り添うサポートを行なっています。
赤ちゃんを数時間預かることでママに休息時間を贈る「タイムギフト」をはじめ、おっぱいケア、育児相談、受診や買い物への同行、ママ同士が交流できるお話し会など、支援の形はさまざま。現在、月に約40人のママたちをサポートしています。

孤独なママたちに寄り添う
ー 活動のなかで見えてくる、ママたちの実情についてお聞かせください。
安田さん「喜びいっぱいであるはずの産後のママは、その喜びと同じくらい、孤独や不安も抱えています。
家族が協力的とは限りませんし、転勤族のかたなど頼れる人が近くにいないケースも多いです。人によっては自分の睡眠も食事もままならないなか、ほぼ1人で赤ちゃんと向き合い続けるなど、子育ては周囲が想像するよりも過酷です。
『なかなか泣き止まない』『げっぷが出ない』『誰かに聞きたいけれど、病院の人たちは忙しそう…』小さな不安や遠慮は積み重なって、どんどん膨らんでいきます。そんな声に耳を傾けて、『それなら大丈夫』、『こうしてみようか』と助産師が一言伝えるだけで、ママの心はずいぶん軽くなります。そばに相談できる人がいる、と感じられるだけで、大きな安心になるんです。」

安田さんは1回のサポートで終わらせることなく、24時間いつでもママからの質問に応えています。赤ちゃんが寝ているときや授乳中でも、ママが片手で送れるLINEを窓口として、不安を抱えたまま過ごす時間を少しでも短くできるよう、できるだけ早い返事を心がけているそうです。
自身の育児経験を活かして
ー ご自身の育児経験が、今の活動につながっているのですね。
安田さん「実は私はDV被害から避難するため、産後1カ月で県外から帰郷しました。大変な時期でしたが、人との出会いに助けられてきたんです。『こうあるべき』を押し付けず、寄り添って見守ってくれた人たちの存在が、今の私を支えてくれています。」

その後、市役所で保健指導の仕事に携わる中で、ママの声に耳を傾ける機会を得た安田さん。育児サークルを立ち上げ、自分と同じ子育て中のママの支えになる活動を、少しずつ始めます。
安田さん「特に必要だと感じたのは、ママ自身が笑顔でいられるための場所です。『助産師がいて、ふらっと立ち寄れてリフレッシュできる』、『ママがゆっくりお昼寝できる』。そんな場所がつくれたらいいなという夢が膨らんでいきました。」

ママの声から生まれたサービス
安田さん「少人数から始めたベビーマッサージやお話会では、ママ同士が自然と声をかけ合い、あたたかな交流が生まれていきました。開業まもない頃に利用してくださったママたちとは今もつながっていて、その口コミのおかげで、たくさんの新しい出会いにも恵まれています。
また、2人目、3人目の赤ちゃんまで、長くサポートさせていただいているママもいます。病院勤務の頃は産後1カ月健診までの関わりがほとんどでしたが、今は赤ちゃんだけでなく、ママの成長まで感じられるほど長く寄り添えます。助産師として、こんなにうれしいことはありません。」

ママたちの声から生まれた新しいサービスもあります。
安田さん「産後ケアの時期を過ぎても、子育てはまだまだ続きます。子どもが大きくなってからも、年齢に関係なく『ほっとできる時間を持ちたい』『安田さんと話したくて』と来てくださる方が多く、そんな声に応えられるように、リンパマッサージの資格を取りました。
身体をゆるめながら日頃の悩みや思いを気兼ねなく話せる、そんな”自分に戻れる時間”にしてもらえたらと思っています。」
もっと子育てしやすいまちへ
ーここ数年で大きく変化している長崎市。子育ての舞台として、どのように見ておられますか?
安田さん「まちのあちこちで”子育てを応援しよう”という雰囲気が広がってきていて、とてもうれしく感じています。
ただ、実際に子どもを連れて歩く立場から見ると、もう少し工夫できるところがあるのではないかと思うこともあります。
新しくできた施設には必ずベビーカーを押して行くようにしているのですが、段差が多かったり、駐車場が狭かったりと、ベビーカーだと動きにくい場所が意外と多いんです。
このような気づきを子育て世代の声としてお伝えする機会は増えましたが、予算やスペースなどの事情もあって、すぐに改善が難しい部分もあると伺っています。だからこそ、できれば構想の段階から”子ども連れの目線”が入ると、もっと住みやすいまちに近づくのではないかと感じています。」

また、助産師の存在をもっと身近に感じてもらえたら、と安田さんは続けます。
安田さん「助産師は国家資格を持ち、ママの心や身体、赤ちゃんのことを専門的に学んできた職業です。だからこそ不安に寄り添ったり、身体のことを一緒に考えたりと、子育てに”安心”を届けられる存在だと思っています。
地域の中で、助産師がどんな役割を果たせるのかがもっと知られることで、ママたちがより安心して過ごせる、まちづくりにもつながるのではないかと感じています。」
これからやってみたいこと
安田さんのもとには、多くのママたちが訪れます。はじめは育児の相談に限られていましたが、時間の経過とともに、子どもの進路やママ自身の人生のことにまで話題が広がっていきました。
安田さんの姿を見て、「助産師でもこんな働き方ができるんだ。会社員の私も何かできるかも」と起業の相談をしてくれるママも増えているそうです。
こうして長崎のママたちの人生の選択肢を広げる存在になれることも、活動を続ける大きな喜びのひとつだそうです。
安田さん「いつか、ママたちが自由に使える『エールビルディング』を市内につくりたいね、と夢を語り合っています。
いつでも育児相談できるブース、ふらっとリフレッシュできるスペース、ママが新たな挑戦をするための学びの場、好きなことで起業できるテナント。パン作りをするママのパン屋さんや、仕事帰りに寄りたくなるお惣菜屋さんなど、長崎のママの笑顔があふれる場所を、ぜひ実現したいです。」

困ったとき寄り添ってくれる存在が身近にいる、という心強さは、長崎で子育てをする人たちに明日への勇気を与えています。
ママの笑顔が家族をしあわせにし、家族のしあわせがやがて地域全体へとつながっていく。安田さんのような「長崎をもっと子育てしやすいまちへ」という思いを胸に活動している人たちの思いと行動によって、子育てのWA、ママたちのWAがこのまちに少しずつ、でも確実に広がっています。
(終)
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