地域全体で学ぶ、令和の性教育

長崎市をはじめ県内各地で、子育て中の保護者を中心に、性について学ぶ講座を行なっています。教職員向け、保育園・幼稚園、小中学校などの子どもたち向けに実施することも増えました。現在は月に2〜3回ほど活動しています。

市民向けジェンダー講座。

「性教育」と聞くと身構えるかたも多いと思いますが、実は私も数年前までそうでした。性教育に関する本を手に取ったことで、徐々に考え方が変化していったんです。
性の話は「親に心配をかけるから相談できない」「周囲が嫌がる話題だから誰にも言えない」という子どもが多く、悩みや問題が起こったとき、親にも誰にも相談できないという現実があることを知りました。

そんな状況では性被害・加害を止めることはできません。大人が性を語らないのに、子どもたちに「相談してね」と言うのも無茶な話です。
だから性教育は自分の家庭だけでなく、地域全体で学んでいく必要があると思ったのが、活動のきっかけです。

また医療従事者として、搬送や手術に至るまでにどうにか止めることはできなかったのか、という悔しさをいつも感じます。
特に救急部では子どもの患者さんに出会うこともしばしばです。追い込まれる前に地域や家庭、学校に、相談できる人や場所があったらと思わずにいられません。そんな医師としての悔しさもこの活動のきっかけの一つでした。

自分を大切に、相手を大切に

長崎市内でも、ジェンダーの勉強会や小学校での性教育の講演など、多くの機会をいただき、お話しをさせていただいています。保護者のかたからは「性について恥ずかしい、汚いと思っていた自分に気づいた」といった感想が多いです。

長崎市内の小学校で話す岡田さん。子どもたちが真剣に耳を傾けていた。

性教育で伝えたいのは「自分を大切にする」「相手を大切にする」ということ。
「私は私のままでいい」「NOと言っても嫌われない」という安心が、自分を大切にすることにつながっていきます。
ポジティブでなくていい、みんなと一緒じゃなくていい、他の誰かにならなくていい、失敗もしていい。
でも大人たち自身が本心からそう思えず、自分も「こうあるべき」に苦しんでいるから、子どもには伝えられない。

また「命は大切だ」と何万回言われるよりも 「あなたが大切だ」と言ってくれる人がいることの方が重要です。 相手を大切にしていけるように地域のみんなで学んでみよう。そんな気持ちで活動をしています。

活動の輪の広がりが、地域を変えていく

仲間が増え、長崎市内でも活動の輪が広がりました。
講座を受けて活動の趣旨に賛同したママが「私も一緒にやりたい」と仲間になったり、それぞれの地区で性教育を始めたりしています。
なかには看護師や保育士、教職員のかたもいて、それぞれの知識やノウハウを持ち寄って助け合いながら、この活動が広がっていくのがうれしいですね。

幼児教育に携わるかたに向けて行われた講座の様子。

「性教育」を入り口に、子どもも大人も追い詰めない、孤立させない生きやすい地域社会を目指し、患者になってしまう子どもを1人でも減らせたらいいなと思います。

もっと自分らしく生きられる長崎市を目指して

「長崎市は日本の端だけど、世界の中心」。これは私が長崎大学に入学してから聞いて驚いた言葉です。それまで地元は日本の西の端で、何にもない田舎だと思い込んでいたので衝撃を受けました。

鎖国時代は世界とつながった最先端のまちで、日本中の学者はここに向かいました。医学教育もここから始まっています。「そんな見方があるんだ」「何もかも1つの枠にはめなくていいんだ」という発見は、自分の世界を広げて自由にしてくれます。

講座の際は性教育に関する本を100冊ほど持参する。

地方に行くほど、これまでの慣習や前例を守る傾向が強いと言われていますが、長崎市は昔から異文化を取り入れて発展してきた、新しいもの好きで寛容なまち。
自由で素直な長崎市の人々のちゃんぽん文化は、一度知れば変われるという可能性を秘めています。

これからの長崎市に期待すること

長崎駅周辺が整備され、長崎スタジアムシティが完成するなど、人々が集って遊んだり学んだりと、まちの変化によって活動できる場も増えていると思います。子どもや保護者にとって、うれしい変化ですね。

そんな長崎市を中心に私がこれからやってみたいと思うのは、子どもや保護者、それ以外の誰でもふらっと寄ることができる「ブックカフェ」です。保護者が休憩しに来たり、本を読みに訪れたり、子どもたちが誰かに相談できるような居場所。

岡田さんが性教育の入り口として薦める本。

性教育の講座を始めてから集めた100冊以上の本も、自由に見てもらいたいです。これが各地域の商店街にできたら、人の動きが変わり、地域全体のにぎわいにもつながるんじゃないかなと思います。

長崎市のまちも、世の中の常識も大きく変化する時代。人も止まらず変化し続けることが大切だと思います。まちや時代はどんどん変化しているのに、考えや価値観が止まるとそこにストレスや問題が生じます。
性教育を含め、これまでの常識や枠にとらわれずに、地域全体で考え行動していくことが、市内外の交流する人が増えている今だからこそ、さらに求められるようになりそうです。

平和教育に力を入れてきた長崎市だから、性教育の大切さをわかる人も多いのではないかと考えています。「自分を大切に生きる」「相手を大切に生きる」というのは人権の話でもありますよね。

身の回りの家庭・学校での人間関係から平和をつくる。それが地域・社会・世界の平和につながっていく。そんな平和の一歩目を、性教育という学びを通して、この長崎市から発信していけるといいなと思います。

(終)

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