親子の体験と学びの場づくり
ー「ワクワクまなびアドベンチャー」とはどのような活動ですか?
“親子の好奇心に火をつける学び場”をテーマに、未就学児〜小・中学生とその保護者を対象として、月1回程度、長崎市内を中心に県内各地で企画・運営をしている体験型の学びプログラムです。さまざまな「達人」との出会い・体験を通して楽しく学び、自分の「ワクワク」を見つけられる構成にしています。

自分の目で見て、聞いて、触って、話すこと。達人やスタッフなどたくさんの大人、たくさんの生き方と出会うこと。このような経験を通して、子どもたちが楽しい時間に没頭し、「これをしているときが幸せ」という「心のお守り」を持てるような「人生の学び場」を長崎市につくりたいと思い、スタートしました。

「ワクワクフレンズ」と呼んでいる運営スタッフには、市内在住の小学校教員やデザイナーなど幅広いメンバーが参加してくれています。またこの活動を理解し支援してくれる地域企業・団体などの「ワクワクパートナー」、イベントごとに招く専門家「ワクワクの達人」と一緒に、地域が一体となって子どもたちの学びの場をつくりあげています。

ーこの活動を始めたきっかけは?
家族で行った上五島の旅行での漁師民泊体験です。豊かな自然の中で、漁船での魚釣りをしたり、漁師さんが目の前で魚をさばく様子を見たりしました。普段の暮らしでは体験できないことを楽しんで、イキイキしている子どもたちの顔を見て感動しましたし、親としても大きな学びとなりました。
学生時代から子どもに関わる仕事に興味はあったのですが、地元長崎市で子育てをしていくうえで、「やっぱり子どもに関する活動がしたい!」と思うに至った経験です。

子どもの素直で一生懸命な姿を見ると、周囲の大人たちも笑顔になったり、突き動かされるものがあったりしますよね。イベントを開催するたびに、すごいパワーだと驚かされます。
長崎市の歴史や文化を「達人」に学ぶ
ー活動で大切にしていること、伝えたいことはどのようなことですか?
一つは、その場だけの「楽しかった」で終わらせないこと。そこで生まれた好奇心を次への興味や行動につなげてもらいたいという思いです。
これまでに農業博士、伝統菓子職人、日本画家、変面師など専門家である「達人」とのイベントを実施しましたが、事前準備ではまずインタビューを行い、そのかたが何を大切にしているのかをお聞きし、文献などでその業界について調べて理解します。

それを軸に、「この達人の世界をどうやったら子どもたちに伝えられるか」「楽しんでもらえるのか」など話し合いを重ね、イベントの流れや仕掛けを考えます。
ただ専門家を呼んで講義をしてもらうのではなく、その専門家のかたが伝えたい内容を分かりやすく、子どもたちも楽しんで受け取れるような形の体験に落とし込む。翻訳作業のような、達人と子どもの橋渡しのようなお手伝いは、運営スタッフがこだわっている部分です。

変面師の親子を達人に迎えた回では、喜怒哀楽や役柄を表現するお面の色についてクイズを作りました。例えば白いお面は危険な人の役、黒は実直な役という意味があるのですが、日本文化から考えると逆のような気がしますよね。
国が違えば色の意味も、そこからイメージするものも違うということを、楽しみながら伝えることができたのではないかと思います。長崎市と中国との交流の歴史や、異文化への関心や理解の入り口になればと期待を込めました。

ー 体験の質にもこだわって、手間ひまかけて準備をされているのですね。
イベント冒頭には期待感を高め、能動的に学びを楽しんでもらうための仕掛けとして、オリジナルで製作した仮想の「探検の島々」の映像を流します。
テレビゲームの主人公が探検でいろんな人に出会い、アイテムをゲットするような物語の世界観を共有することで、傍観者ではなく自分主体の体験になることをねらっています。

また、体験をする前に知っておいてほしい基礎知識や、子どもたちに伝えたいテーマは、紙芝居やクイズ形式にして、楽しみながら学んでもらえるよう準備しています。
クイズに参加するともらえる「ワクワクの種」を持って、達人の「見るコーナー」「触るコーナー」などで体験をしてまわり、終了時には興味を持った「こと」や「もの」に「ワクワクの芽」シールを貼ります。
自分の中に芽生えた「ワクワクの芽」は、芽のままにしておいてもいいし、帰宅後に花を咲かせるかのように、さらに興味や活動を広げてもいい、という余地も残しています。
シールを貼ることで、自分の好奇心が動くのはどんな時なのか、どんなことに興味を持つのかと考えるきっかけになります。みんなのワクワクした「こと」「もの」も一目でわかるので、他者と自分の違いを知り「人と違ってもいいんだ」ということも学ぶことができます。

イベント後には振り返りノート「ワクワク探検ノート」を書いてもらい、探検のたびにノートが増えていく仕組みにしています。また子どもにインタビューして、その後の興味・関心にの状態について聞いたり、さらに学びを深めるための次の行動(誰かに会いに行く、何かを調べてみるなど)についてアドバイスをしたりもしています。
ー イベントの時だけでなく、その後の関わりもあるのですね。子どもたちの反応はいかがですか?
イベントをきっかけに興味を持ち、学びや遊びを広げている子もいて、子どものパワーに驚かされます。
「日本画の達人」の回では、世界中の石や土から作られる絵の具について体験をしてもらったのですが、そこに石を好きな子が参加してくれていました。
イベントのあと話を聞くと「親子で長崎市内のあちこちの石を集めて、砕いて自分で絵の具を作った。この石は固かったけどこっちは柔らかかった」と目を輝かせて報告してくれました。次は和紙づくりをやってみたいと興味津々でしたよ。
活動で広がった、つながりのWA
ー活動を始めたことで、ご自身にどのような変化があられましたか?
この活動を一緒に盛り上げる大切なつながりができたことが、最も大きな変化ですね。運営スタッフである「ワクワクフレンズ」は職業も年齢もさまざまですが、この活動に共感し、協力してくれる人たちには感謝の気持ちでいっぱいです。
背景も性格も違うからこそ、それぞれの「得意」を活かすことで助け合い、高めあうことができるのが魅力です。

また、これまで私自身「周りの期待に応えるべき、社会で理想的とされる人生を歩むべき」という思いから、劣等感を感じたり自信が持てなかったりという時期がありました。
しかし、自分に合ったやり方や考えに共感して、一緒に活動してくれる仲間がいることで、「苦手なことは頼っていい」「助けて補い合える」と、そのままの自分を受け入れられるようになりました。この活動を通じて、教育業界や社会の構造に目が向くようになったことも、自分の大きな変化の一つです。
家族そろって、長崎くんち
ー柳さんは、長崎くんち好きとお聞きしました。ご自身もお子さんも、長崎くんちに出演されたそうですね。
そうなんです。祖父母も父母も長崎くんちに関わってきて、私と子どもたちも出演するほど、くんちが大好きな一家です。進学で東京に住んでいた時も、くんち開催の10月には必ず帰省しました。結婚後は県外に住んでいましたが、長崎市にUターンする理由の一つになったのもくんちです。

私も10年ほど前に出演させてもらったのですが、その時の映像を子どもたちが繰り返し見ていて、自分も出たいと思ったようです。昨年の長崎くんちでは、子どもたちが実際に出演させてもらいました。稽古は大変な時もありましたが、立派に踊る姿を見て、自分が出演した時以上の感動を覚えました。伝統ある長崎くんちに、親子で出演できたことはとても光栄です。

県外出身の夫も、くんちがきっかけで地域とのつながりが深まりました。稽古が始まると、スケジュールをチェックして各踊り町の見学に行くほど、夫もくんち好きの「長崎人」になり始めています。
地域のみんなで、未来をもっとワクワクに
ー大きな変革期を迎えた長崎市で、どんな「長崎の輪」が生まれていますか?
新しい施設や交流の場が増えたので、さらに人とつながれる機会が多くなりそうです。ご自分の知り合いまで紹介してくれる親切なかたが、長崎市には多い印象です。「そんな活動をしているなら、この人に会うといいよ」とご縁をつないでくださるおかげで、活動をぐんぐん前に進められていると感じます。
それに自分の利益だけを追求するのではなく、それぞれが持っているものを惜しみなく出し合い、社会に還元することで、地域全体の発展を願う人たちがいるのも、とても心強いです。これから先さらに、子どもたちの学びを「自分ごと」として捉えて協力してくださる企業や団体が増えていくことを期待しています。

ー長崎市という場所のアドバンテージはどこにあるでしょうか?
活躍する分野や生きてきた背景が違っても、同じ価値観を持って垣根を越えていける。伝統と最先端、県内と県外の知見をミックスできる。そんな柔軟で寛容な考えを持つ長崎市のまちに誇りを感じています。
今後はもっと、地元の課題解決を目的にビジネスを実践する仲間との出会い、つながりを増やしていきたいですね。
ー長崎市が持つ魅力を通じた学び場の提供について、今後取り組みたいことはありますか?
これまで長崎市の歴史や風土を生かし、「おくんち博士とめぐる、お稽古裏側ツアー」、「変面を通して学ぶ長崎と中国の文化交流」、「老舗伝統菓子店と長崎の歴史」、「地元漁師さんの暮らし・街好き案内人とめぐるツアー」などを実施してきました。

長崎市というまちの持つ独特の魅力と、子どもたちを思って快く協力してくださる温かい人たちの存在は、かけがえのない宝物だと感じます。
今後も、長崎ハタや長崎刺繍、検番さんや料亭文化など、地元の方々にご協力いただきながら、長崎市ならではのプログラムを展開していきたいですね。
子どもたちのワクワクがあふれるまちは、きっと大人だって幸せなはず。長崎市の自由で柔軟なマインドのもと、地域・企業・行政がそれぞれの得意を生かして、子どもたちの楽しい「ワクワクする」学びの機会を増やしていけたらと思います。
(終)
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